10-8 FESTA松本

 

≪FESTA 松本≫2021 の初まりの始まり

我々は2021年秋に松本における年一回の演劇的フェスティバルをスタートさせます。
演劇“的”ということは、いわゆる舞台上で行われる一般的演劇に限らず、もっと広い意味のライブパフォーマンスやさらにそれにまつわるあらゆる表現を意味します。
もちろん今回は舞台上の演劇が中心になるでしょうが、舞台といってもまつもと市民芸術館の中の舞台だけではなく、他の様々な劇的空間になる場所で、音楽やダンス、人形劇、朗読、サーカス芸、大道芸そして演劇的趣向の茶話会、討論会さらにはアート展示や食べたり飲んだりすることだってフェスティバルにふさわしい演劇“的”なものになるかもしれません。
フェスティバル=“お祭り”というものは決して社会が安泰で裕福な時にだけ行われるものではありません。むしろ我々人間が困難な災難に見舞われた時にこそ、平和な社会生活が戻るように祈りを込めて、また心を健全に保つために、さらには人類がこれから先の生き方、営みのあり様を見つけ出すために行われるものでしょう。それこそが“祭り”の本来の役割なのだと思います。ですから人類がコロナウィルスのパンデミックに見舞われ苦しんでいるこの困難な時にこそ、記念すべきフェスティバルを立ち上げるべきだと思っています。
我々はこの“コロナ禍”によって多くのことを失いましたが、同時にまた多くのことを学んだはずです。むしろ真の目的を見失って暴走し続けた発展や繁栄を見つめ直し、我々がどう生きていくべきか、どう隣人たちと向き合っていくかを感じとったはずです。それこそが人間の尊い知恵なのですから。

Illustrated by Kazuyoshi Kushida

この松本市民の演劇的お祭り《FESTA 松本》はまつもと市民芸術館の総監督やプロデューサー、ましてや興行の専門家だけで企画し運営していくものではありません。出来得る限り多くの松本市民と、あるいは強い関心を持って全国から集まってきた人々が一体となって協力しあい、知恵を出しあい一緒に困難を乗り越えて作り上げていきたいと熱望しています。なぜなら多くの人々と作り上げるその行為、その喜びこそ芸術文化の本質であり“お祭り”の真意であり原点であると確信するからです。
第一回目となる今年の『FESTA 松本』は予算的にも、人材的にも経験的にも乏しい出発となるでしょう。ましてコロナ禍の最中です。考え出したら不安は募るばかりです。けれどもこれがこの世界の本来の姿なのかもしれません。私たちは決心すべきなのだと思います。たとえ貧しく質素であっても“豊か”であろうと。たとえ不自由であっても限りなく“自由”であろうと。創り手たちだけでなく、協力者たち、観客たち、偶然通りがかったゆきずりの人たち、この時空を共有する全ての人たちの限りなく自由で豊かな想像力で。

「FESTA 松本」=“お祭り”は決して権威主義にはならないことを決意します。
表現として行われる行為や提供する時空の価値を見出すのは、そこに居合わせた人々個々が自由に感じとることだからです。
また、フェスティバル の成果を経済の基準で決めないこと。決して特定の個人や団体の利権を生みださないことを願います。それは私たちのフェスティバル のあるべき姿とは程遠いことです。
そして“常識”という疑念からも自由でありたい。既成事実と思い込んでいることにとらわれず、そんなことはできるはずないと諦めず、斬新で自由な可能性を探したい。言葉を見つけられずにもがいている未熟なものたちの感性、直感に耳を傾け、目を向けたい。
そして時間をかけながら、どこにもなかった魅力的な松本のお祭り「FESTA 松本」をみなさんと一緒に作り上げていきたいと心から願っています。
第一回目の今年はよちよち歩きの「FESTA 松本」ですが、一年ごとに模索し、人々に愛され、きっと思いも掛けない幻のユートピアのように、多くの方々と共に成長していくことを願っています。

FESTA 松本 総合ディレクター 串田和美
(まつもと市民芸術館総監督・TCアルプ座長)

 

Home

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。