劇団天の夕顔 椿宏尚

 

松本で舞台活動をされている方々に焦点をあて、創作・表現についての想いや、活動内容の紹介をする。

 

今回は、劇団天の夕顔所属の椿 宏尚氏にお話を聞きました。

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松本工業高校の理科教諭である椿氏は、信大時代、劇団山脈(やまなみ)に所属。

その後も松本を中心に演劇を続け、現在は主に自身が一人芝居を行うためのソロプロジェクト「シアタープロジェクト・サザンクロス」として活動。

まつもと演劇連合会の副会長でもあり、「ぴかぴか芝居塾」の講師も務めている。

 

 

― 信大、山脈時代というのは?

 

当時、公演前1カ月半は毎日休みなしで一日7時間稽古していました。

もうみっちり!

厳しかったです。

ランニングや筋トレ、発声練習などの基礎練習。

役者の体を作るのって結構大変なんですよね。

演技稽古、スタッフワーク、全部やります。

年3回は公演していましたから恐ろしくハードです。

今考えると、とんでもないです。

 

三年の時(2003年)には本公演の演出もやりましたし、本当に濃い内容で演劇にどっぷり浸かった生活でした。

 

3年最後の公演が終わってからは、このまま演劇から離れていくのだろうな、と思っていました。

山脈を引退すれば芝居をやる機会も無いですし。
 

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そんな時にたまたま初心者向けの演劇ワークショップ「ぴかぴか芝居塾」のチラシを見たんです。

そのチラシにはワークショップ修了後に演劇祭に出られるということが書いてあって…。これは大きかったです。

また舞台に立てるんだって。いいタイミングでしたよね。

だから、「ぴかぴか」の一期生として初めてピカデリーホールの舞台にも立ちました。

そんな僕が今はワークショップの講師をやっている。不思議なもんですね。

 

大学卒業後、劇団天の夕顔の廣田さんに声を掛けてもらい、客演、その後、団員になりました。

 

 

―「天の夕顔」に入ってからは

 

その頃は大町北高校勤務していました。松本と大町の距離感が分かってなかったんです(笑)

仕事を終えて、1時間かけて松本に来て、2時間稽古して、また1時間かけて帰る…。

 

女性の多い劇団ですが、いろいろな劇団からの客演など、経験豊富な方から演劇を始めたばかりの人まで一緒に舞台に立てたことはとても勉強になりました。

 

07年秋の公演では、「天夕」で初めて演出したんです。

これがあまりうまくいかなかったんです。

 

時間的な制約、役者との兼業、演出家としての経験不足…、客演に対する遠慮もあったし、

自分の意図するレベルまで作り込めていなかった。

 

終わってから、あるお客さんにボロクソ言われました。

自分でも分かっていた点を指摘されたので、何も言い返せませんでした。

 

打ち上げの時、BLUESのおもけんから一人芝居の話を聞いて、自分の中で気持ちが高ぶりました。

「俺も一人でやってやろう!」と

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― 「シアタープロジェクト・サザンクロス」発足

 

勢いもありました。酔ってたし。

「シェイクスピア?いいじゃん、やるやる!」「ハムレット?よしわかった!」…。

「ハムレット」なんて読んだことなかったですけど。

次の日、慌てて本屋で買って読みました。(笑)

 

そこから2カ月かけて台本を作って、音響から衣装まで自分ひとりで芝居作りを進めました。しんどかったですけど楽しかったですね。

 

一人芝居は自分の体で全部自由に表現できるし、周りの人に気を配らなくてもいい。稽古も松本じゃなくてもできるし。

 

今だから言えますが、当時勤めていた高校の体育館で夜こっそり稽古したりしましたよ。大丈夫かな…時効ですよね。

 

一人でやろうと決めたのが07年の秋で、次の年の3月には「ハムレット」を信濃ギャラリーで単独公演しました。

 

お客さんは少なかったんですが、意外に反応良かったですよ。

 

その一年後には同僚の勧めで、自分の勤務先の高校で、当時教えていた三年生全員の前で再演しました。

 

普段、演劇なんか見ない高校生たちが、「先生面白かったよ」って言ってくれたり、ハムレットに興味を持ってくれたりして、やった甲斐がありました。

 

若い子たちにも意外と伝わるんだなって。

 

 

― やっぱり一人芝居の方がいい?

 

僕自身は、一人でやるより他の役者と絡んでやる方が断然好きです。

演出よりも役者として舞台に立つ方がいいし。

 

続けているのは意地みたいなものもあるんです。

 

周りからの意見もいろいろあります。

ある人は「ネオ落語だよ」とかって褒めてくれますし、

ある人は「一人でやることによるメリットが分からなかった」と否定的な意見をぶつけてきてくれます。

 

一人でやることの強みをあげると

全登場人物を一人で演じるので、ストーリー構成をしっかり考えて作らなければなりません。休む間もないので、展開に非常に気を配ります。だから、一人芝居と言ってもストーリーとしてはわかりやすいと思うんですね。

 

ただ、演出から何から全部自分でやるのはすごくエネルギーを使います。

 

一番やりたいのは、自分で書いた本を自分で演じて、演出は別の人、これが理想形です。

 

もちろん公演時、スタッフで手伝ってくれる仲間には本当に感謝しています。

 

 

― そのハムレットが「ハムレット2」になって帰ってくる

 

今度は2人芝居です。

シアクロとしては、一人でやることにこだわってはいないですし。

もともと客演も想定していたプロジェクトでしたので。

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二人になると表現の質が全く違います。

基本構成は変わっていないのですが、

せっかく2人でやるので2人の登場人物を対等な軸にしたいという構想がありました。

ハムレット1人の物語ではなく、ハムレットとレアティーズ、それぞれが主体となって話が運びます。2人をちゃんと対比できるように。

ハムレット2の「2」は、2回目の「2」と2人の「2」なんです。

 

脚本を作る上で感じたのは、一人より制約があるなと…。

 

一人芝居なら同時に舞台上に3~4人、役を出しますが

二人だと、どっちが今、誰をやっているのか、

お客さんから見てわかりやすくしないといけない。

 

シーンの構図、客からの見え方を工夫するのが結構大変でしたね。

 

 

― 演劇に興味がある人に向けて

 

ぴかぴか芝居塾では5回目から講師やり始めています。

ワークショップのコンセプトは楽しんでもらうのが前提なので

気負わず、演劇ってこんなものだよっていうのを感じてもらえればいいなと。

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誰でも表現したい気持ちってあると思います。

絵、音楽、文章、表現方法はたくさんありますが

その中でも「演じる」って割と簡単な方法じゃないかと。

もともと人間って、日常の中で何かしら演じていると思いますし。

 

舞台で役を演じると、確実に人生の幅が広がります。

演劇っていうものに少しでも興味があれば、ぜひ足を一歩踏み出してもらいたいです。

 

その魅力にきっと気づいてもらえるはずです。

これまで「ぴかぴか」のメンバーが演劇に取り組んでいるのを見ていると

すごくみんな輝いています。

 

本当に楽しいですよ。

一度舞台に立てば、きっと人生観変わりますよ!

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(2016年2月16日・ピカデリーホールにて)

 

■舞台写真/第19回まつもと演劇祭上演作品「ガリレオ」より   ■撮影/宮川健太郎

 

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